技術系管理職の働き方改革 〜忙しさを可視化する〜

働き方改革のもたらすもの

 働き方改革関連法案の一部が施行され始めたのは2019年4月のことで、それから5年近く経った今では多くの企業で経営課題として認知されています。

 働き方改革は、元々、労働力人口の急激に減少している問題の解消のために「働き手を増やす」「出生率の上昇」「労働生産性の向上」に取組むものです。それを実現するための課題の一つに「長時間労働の解消」があります。なぜ「長時間労働の解消」なのかというと、これが就労人口が増えない原因の一つであり、さらに長時間労働の問題が出生率に影響していると考えられているからです。長時間労働は厳しく規制されることになりました。

 しかし、これは企業の現場にとっては相当な重荷でもあります。法案によって一人当たりの労働時間は劇的に減少しましたが、アウトプットを出すためにしなければならない仕事の量はさほど変わっていないません。ここに歪みが生じています。働く人を増やし一人当たりの仕事量を減らせれば良いのですが、働く人の数はそんなに急に増えるはずもありません。まだまだ時間がかかる話です。特に管理職の皆さんは、総労働時間は劇的に少なくなっているのに、以前と同じアウトプットを求められ、非常に辛い立場になっているのではないかと思います。

労働生産性を向上するために

 しかし、愚痴を言っていても仕方がないので、やれる事、やるべき事をやりましょう。人はすぐに増えません。やるべきなのは「労働生産性の向上」つまり限られた時間内で出せるアウトプット量を増やす事です。このために仕事のやり方を見直すことになります。おそらく、皆さんの職場でも色々な施策が取られているのではないかと思います。よくあるのが以下のようなものです。

  • 会議に時間が取られすぎていて他の仕事ができないので、会議時間を減らそう。
  • 書かなければいけないドキュメントや報告書が多すぎなので、報告書は極力減らそう。
  • 同じような作業の繰り返しに時間が取られているので、これをツールで自動化しよう。

これらの対策は、おそらく多くの場合正しく効果が出ることも多いとは思います。ただ、このような話を聞くといつも疑問に思うこともあります。一体これらの施策はどれ程の効果があるのでしょうか?そもそも、会議や報告書の作成にどれだけの時間がかかっていて、それがどれだけ削減できるのでしょう?

 何の業務にどれだけの時間を使っているのかは、多くの場合測定されておらず、実はよくわかっていません。特に設計部門や管理部門などディスクワークが中心の職場では把握が難しく、使えるデータはほとんどないのが実情ではないかと思います。実態が把握されていないままに、闇雲に効率化の施策を進めるのが良いことだとは、とても思えません。

業務時間の計測によって得られる効果

 労働生産性を向上させるために、それぞれの人がどのように業務をしているのかを定量化、見える化することが、今後非常に重要になってくるでしょう。また、業務時間を計測し把握できれば、単に、個人の時間の使い方だけではなく、組織やプロジェクトとして課題も明らかにできます。

  • 過去の製品やプロジェクトのクレームや不具合への対応などの負の遺産に時間が取られてしまっていないか
  • 前のプロジェクトが終わらないので、新しいプロジェクトに時間が割けなかったりしていないか
  • 上流工程が遅れていて、下流工程をする人がアイドル状態になっていないか

 さらに、マネージャは部下の業務実態を把握することで、マネージメント上の問題点を発見し、これを組織運営に活かすこともできます。

  • 特定の人に特定の業務が集中しすぎていないか
  • 地味であまり人目につかないが重要な仕事をしている人を評価できているのか
  • マネージャが把握できていない仕事をたくさん抱えている部下はいないか
  • 部下の教育にどれだけの時間が取れいてるのか

業務時間の計測方法

 ディスクワークが中心の職場では、多様な業務をしているため、業務時間を正確に計測するのはなかなか難しく、これまで業務時間を計測する取り組みはあまりされてきませんでした。「業務日報」や「業務報告書」を書くことによって業務時間を把握するやり方は、昔からあります。しかし、このやり方はあくまで自己申告のデータであり客観性がないため、どれ程現実を反映しているか疑わしいという問題と、何よりも手間がかかると言う問題があります。

 最近出てきているのは、PCの操作記録を取理、この情報により業務時間を把握する方法です。以前はPCを使って行う業務が全体の一部でしかななかったため、あまり有効な手段とはなっていませんでしたが、昨今のデスクワーカーは、ほとんどの業務をPC端末でやるようになってきています。コロナ禍により、リモートワークが必要になり、この傾向は益々顕著になっています。これまではPC端末等は使っていなかった会議などでも、リモート会議やペーパレス会議のためにPC端末を使うことが多くなりました。この方法で、デスクワーカーの業務実態のかなりの部分を把握できるようになってきています。

 PCの操作記録を取って業務を可視化するツールには以下のようなものがあります。

 これらは、概ね同じような仕組みを持っています。まず、PCでの操作(ウインドウで操作したファイル名、メールの件名、キーボード、マウスからの入力など)を記録します。その上で、記録した操作が「何の作業のためのもの」かを解析して分類・仕分けをします。解析のためのルールは基本的にユーザ側で設定します。例えば、操作したファイルやメールに特定のキーワードによって、どのカテゴリーに分類するかを決めたりします。

 試しに、上記の中から、無料で使えるActivityWatchで自分の業務時間を計測してみたら以下のようになりました。ちなみにActivityWatchの機能については、noteに別記事として書いていますのでこちらも参考にしてください。(#4 勝手に記録してくれるタイプのタイムトラッキングツール 〜ActivityWatch〜

 Work(仕事)、 Administration(管理)、Finance(財務)などのカテゴリーに分類し、仕事はさらにWriting(記事原稿の執筆)、ソフトウェア開発などのサブカテゴリーに分類しています。何の操作記録をどのカテゴリーに紐づけるかのルールは自分で設定します。緑色のWritingの時間はMicrosoft WordとかWordPressとかの原稿作成に使う画面を表示した時間などで、さらにどのファイルを開いていたかによって何の原稿を書いていたかに分類しています。紫色のところはFinanceでこれは、会計ソフトの画面を表示していた時間です。グレーで表示されている「Uncategorize」はどのルールにも該当しなかったものです。あまり仕事とは関係のないネットニュースを眺めたりしている時間などが入りますが、本来はWorkに含まれるべきもので、ルールでうまく紐付けできていないものも含まれています。

 全ての時間を網羅的に分類する設定ルールを作るのは難しく、どうしても分類から漏れてしまうものが出るので、計測した時間は100%性格というわけではありません。また、当然ですが端末を離れてやっていた作業は反映されません。それでも、大体の時間の使われ方は把握でき、多くの気づきも得られます。

企業での導入のためには

 業務の見える化ツールを導入することで、ある程度の業務時間の計測はできます。これまで業務の実態を全く把握できていなかった事を考えれば、これだけでもかなり意味のある事です。しかし、先の「業務時間の計測によって得られる効果」であげたような事を知るためには、単にこのようなツールを導入するだけで十分とも思えません。

 おそらく、勤怠管理システムやリモート会議システムなど他のシステムのデータと連携することで、より正しい実態把握が必要になるでしょう。また記録されたデータを使って、もっと複雑な分析をしたくなるでしょう。例えば、関わっているプロジェクトごとでの分類、直接作業・間接作業別の分類、技術分野ごとの分類など多面的な分析は必要になると思います。そのためにAIを活用することも考えられます。ツール自体も組織に合わせて改造したり拡張したりする必要があるように思います。試行錯誤しながら、自分たちの組織に合わせたやり方を確立する必要があるのです。

 いずれにせよ、まずはツールを導入しデータをたくさん取ってみることはとても大事です。それによって見えてくるものはたくさんあるはずです。そういう意味では、とりあえずOSSであるActivityWatchあたりを導入してみるのが良いのかもしれません。ベンダーに依存せずに、改造したり拡張したりすることができますし、色々なシステムと連携するのも難しくなさそうです。実際にちょっとした拡張機能を作ってみましたので、こちらも紹介しておきます。(#6 タイムトラッキングツールActivityWatchを拡張してみる

 さて、最後に本業のコンサルタント業務の宣伝です。System Design K2では、業務の見える化のコンサルタントの依頼も受け付けています。見える化をやってみたいと考えていて、質問や相談がある方は、コメント欄、問い合わせフォームやメールなどでお気軽にご連絡ください。

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