DXにおけるデータとシステムの役割

前の投稿 ( 今更ですが、DXって何でしょう?)で、事業を改善したり価値を高めるのにデータを活用することがDXの本質だという話をしました。今回は、これを踏まえて、データを活用するというのはどういうことで、そのために何が必要かと言う話です。

データと情報

 データとは、客観的な事実の記録であり、文字、数値、画像、音声など様々な形で表現されるものです。情報とは、一定の意味を持ち、それを通して何らかの知識が得られるものです。個々のデータは、それだけでは意味を持つものではありません。データを収集・加工・分析・評価することにより意味のある情報を取り出すことができます。

 例えば、野球を例にとると、過去の試合のスコア(記録)は「データ」ですが、これだけではまだ「情報」にはなっていません。過去の試合のスコアを集めて分析することで得られる、「××選手が初球を振ってくる確率は12%」「〇〇投手は2ストライクからはスライダーを投げる割合が70%」などが情報です。

データの例:野球のスコアカード

コンビニエンスストアなどの店舗を例にとるとPOS等により「データ」が収集されます。これを分析することにより「ABCストアでは他の店舗よりもピザが売れる割合が30%多い」などの、今後の仕入れ有効な価値のある「情報」が得られます。事業に必要なのは「価値ある情報」です。

データの例:POSデータ

 DXで言うところの「データを活用する」というのは「データから価値ある情報を取出す」ということです。しかし、上記で例として挙げたデータを活用し情報を取り出す事例は、別に今始まった話ではなく昔からやっていることですよね。昔の情報分析と、今のDXでは何が違うのでしょうか?

 違いはデータ処理の「デジタル化」です。データをデジタル化し大幅に進化したIT技術で処理することにより、従来よりも圧倒的に得られる情報が多くなり、また短時間で情報を得られるようになったことが大きな違いです。以前のデータ活用ではデータは、データをあちこちから手作業で集めて集計することも多かったので、集計できるデータの量と種類は自ずと限られていました。また、集計し分析するのに数週間、場合によっては月単位で時間がかかっていました。データをデジタル化してIT技術で処理することにより、多岐にわたるデータを大量に収集し、高速に処理ができるようになりました。結果として以下のようなことができるようになりました。

  • 大量なデータにより、情報の精度が上がる
  • 多種多様なデータを関連づけて分析することにより、新たな情報が得られる
  • きめ細かい分類で分析ができる。よりパーソナライズされた分析ができる
  • データを機械学習させることにより、事象の推論・予測が可能になる
  • これらが、よりリアルタイムにできるようになる

以下の有名なDX事例は、このようにして得られた情報を活用して成功しています。 

Amazon

オンライン小売業界での成功例としてよく知られています。同社は顧客の購買履歴や嗜好を分析し、パーソナライズされた商品レコメンデーションを提供することで、顧客満足度と売上を大幅に向上させました。

Netflix

ストリーミングメディアサービスでの成功例です。同社は大量の視聴データを収集し、機械学習アルゴリズムを使用して顧客の嗜好を理解し、パーソナライズされたコンテンツ推薦を提供しています。この戦略により、顧客獲得と顧客の長期利用を促進しました。

Uber

配車サービスでの成功例です。同社はユーザーの位置情報や乗車データを収集し、機械学習アルゴリズムを使用して需要予測や価格設定の最適化を行っています。これにより、利便性の高いサービスと競争力のある価格を提供してきます。

Spotify

音楽ストリーミングサービスでの成功例です。同社はユーザーの音楽プレイリストや再生履歴を分析し、機械学習を用いた音楽推薦を行っています。この個別の音楽推薦により、顧客のエンゲージメントを高め、競合他社との差別化しています。

情報システムの役割

デジタルデータから情報を取り出す役割を担うものが「情報システム」です。製造業における製造設備との対比で説明してみます。

 かなり荒っぽく単純化すると、製品製造の場合、製造設備に原材料や部品が入力されて製品が出力されていると見なすことができます。同様に、情報処理の場合、システムにデータが入力されて情報が出力されることになります。いずれの場合も、「価値」が付与されて出力されます。

 DXを実現するデジタル技術として、データ分析ツールやAI等がよく取り上げられています。これらの技術を駆使することは重要ではありますが、これだけがあっても継続的に情報を取り出すことはできませません。「システム」として機能させることが必要です。非常に優れたロボットシステムだけがあっても生産設備として機能せず、自動車の製造ができないのと同じことです。

 情報システムは、データベース、データ分析ツール、AIプラットフォームなどの各種ソフトウェア技術・製品と目的の情報を取り出すためのアプリケーションソフトウェアを、組み合わせ、繋ぎ合わせて、全体として妥当に動作するように構築されます。これらのソフトウェアは、専用のサーバマシンであったり、クラウドプラットフォームなどのハードウェアの上に搭載され、データはネットワークを介してやり取りされます。

 DXにおける情報システムは、多岐にわたるデータを大量に収集し、蓄積し、高速に処理ができるものである必要があります。扱うデータが多岐にわたるということは、それを取り扱うソフトウェアが複雑になるということを意味します。データを大量に収集・蓄積し、高速に処理するということは、CPU、メモリ、ストレージなどのコンピュータリソースやネットワーク容量が大量に必要になることを意味します。このようなシステムを構築し、妥当なコストで安定して運用・維持していくのは簡単なことではありません。それなりに高度なシステム設計や運用の技術が必要になります。

データの役割

 製造業において、価値ある製品を作るためには、当然のことながら、製造設備だけが優れていても価値ある製品にはなりません。優れた機能や品質を実現するための、製品設計が必要ですし、設計を実現するに足る品質を持った原材料や部品が必要です。また、ユーザに製品を適切な納期で適切な価格で提供するためには、原材料や部品が適切なコストとリードタイムで安定して手に入ることも必要です。

 情報処理に置き換えると、原材料や部品に相当するのがデータ、製品に相当するのが情報になります。製造業の場合と同じように、価値ある情報を得るためには、情報システムだけが重要なわけではありません。以下が必要になります

  • 何のデータをどう加工・処理して、どのような情報を得るのかの設計(データ設計)
  • 正しい情報を得るのに足る品質を持ったデータ
  • データのタイムリーで継続的な入手

データから情報を得るための設計をし、正しいデータを使いたいタイミングで使えるように管理することが必要です。このような活動を「データマネージメント」と言います。

データマネージメント

 データマネージメントについては、データマネージメント協会(DAMA)が編纂したDMBOKに体系立ててまとめられています。DMBOKは「Data Management Body of Knowledge」の略です。日本語のタイトルは「データマネージメント知識体系ガイド」です。初版は2009年に出版され、現在最新の第二版が2017年に出版されています。(以下 DMBOK2と表記します。)

 DMBOK2によると、データマネージメントとは、「データと情報という資産の価値を提供し、管理し、守り、高めるために、それらのライフサイクルを通して計画、方針、スケジュール、手順などを開発、実施、監督すること。」と定義されています。また、DMBOK2では、データマネージメントに必要な11の知識領域について記載されています。

No知識領域定義・目的
1データガバナンスデータを資産として管理するための戦略の策定、ポリシーの制定、監督、課題管理などを行うこと
2データアーキテクチャビジネスサイドのニーズから必要なデータ要件を洗い出し、これを満たすシステムやデータの流れを設計すること
3データモデリングとデザインデータを構造的に整理し、ビジュアルなモデルに表現することにより、データを効率的に扱えるようにすること 
4データストレージとオペレーションどのようなデータベース製品を使ってどのようにデータを格納するかを設計し、それを実装・運用していくこと
5データセキュリティデータが破壊されたり盗まれたりするのを防ぐために用いられる一連の対策 
6データ統合と相互運用複数のデータソースからきたデータを、組織・アプリケーション横断で共有して使う仕組みと運用
7ドキュメントとコンテンツ管理データベースには保存されていない、非構造化データの管理 
8参照データとマスターデータ共通的、組織横断的な概念のデータ化と管理
9データウェアハウジングとビジネスインテリジェンス様々なソースからのデータを共通のデータモデルへ統合・格納することと、これに対する分析
10メタデータ管理存在する大量のデータのうち目的のものを効率的に探し出すための手段の提供 
11データ品質正確性、完全性、一貫性などのデータの品質の改善と維持
DMBOK2 知識領域

DX実現にとって、データマネージメントは非常に重要な要素なのですが、取り上げられることがが少ないように思います。これついては、別途解説記事を投稿したいと思います。

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